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名古屋地方裁判所 昭和45年(ワ)1114号 判決

一 第一事件

原告

亡山田年一訴訟承継人

山田いわの

外七名

右八名訴訟代理人

奥村仁三

木村豊

長谷川忠男

二 第二事件

原告

亡犬飼弥三郎訴訟承継人

犬飼たま

外二九名

右三〇名訴訟代理人

奥村仁三

木村豊

長谷川忠男

三 第三事件

原告

久田米子

外二一名

右二二名訴訟代理人

奥村仁三

木村豊

長谷川忠男

四 第四事件

原告

森おわ

外一三名

右一四名訴訟代理人

奥村仁三

木村豊

長谷川忠男

五 第三、四事件

原告

第三事件亡松波関市訴訟承継人

兼第四事件亡松波関市及び同松波志げ各訴訟承継人

松波ひな子

外七名

右八名訴訟代理人

奥村仁三

木村豊

長谷川忠男

六 第一ないし第四事件

被告

下之一色漁業協同組合

右代表者清算人

横江金夫

右訴訟代理人

花村美樹

野呂汎

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告らに対し、別紙請求金額一覧表請求金額欄記載の金員及び同表遅延損害金起算日欄記載の日から完済まで年五分の割合による金員を

1 共同漁業権

漁業権の

免許番号

漁業の種類

漁場の位置

共同漁業権者

伊西共第一号

第一種

はまぐり、しゞみ、しゝび、まて、かきおごのり、しおふきはいかい、あおさ

第二種

ぼら建干網、ぼら建網、うなぎ石倉

三重県桑名郡木曽岬村木曽川から愛知県海部郡鍋田村鍋田川に至る地先

三重県

城南村、赤須賀長島村、伊曽島村、伊曽岬村

愛知県

弥富町、鍋田、江町、飛島村、十四山村

第一〇一号

第一種

かき、はまぐり、まてがい、はいがい、あさり、しおふき、しゞみ、おごのり、あおさ、つぼめ、めじ、餌虫、しゝび

第二種

建干網、壼網、いしくら、しばづけ、みかんかご

海部郡鍋田村飛島村江町南陽町及び名古屋市一部の地先

名古屋市

熱田、港、笠寺海部郡、鍋田、飛島、蟹江、南陽、十四山(以下九組合と略称)

第一〇二号

第一種

あさり、もつぶ、はまぐり、しおふき、はかがい、かき、まてがい、餌虫、みじいそぎんちゃく

第二種

建干網、壺網、白魚間手網、いしくら、しばづけ、みかんかご

右同

2 区画漁業権

漁業権の

免許番号

漁業の種類

漁場の位置

共同漁業権者

区第一〇一号

第一種

のり養殖業

海部郡鍋田村地先

九組合

区第一〇二号

同右

同右

同右

区第一〇三号

同右

同右

同右

区第一〇四号

同右

同右

同右

区第一〇五号

同右

海部郡飛島村地先

同右

区第一〇六号

同右

同右

同右

区第一一三号

同右

名古屋市港区地先

同右

区第一一四号

かき、のり養殖業

名古屋市中川区地先

同右

区第一一五号

のり養殖業

名古屋市港区汐止町地先

同右

区第一一六号

同右

同右

同右

区第一一七号

同右

同右

同右

区第一一八号

のり、かき養殖業

同右

同右

区第一一九号

同右

名古屋市港区汐見町地先

上野、笠寺

支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  請求原因

一  当事者

1  原告ら

原告らは、被告の組合員またはその相続人であり、被告の有していた漁業権に基づき漁業に従事し生計をたててきた者またはその相続人である。

2  被告

被告は昭和二四年水産漁業協同組合法に基づき設立された漁業協同組合であり、昭和三五年八月当時有していた漁業権は以下のとおりである。

被告の組合員の状況は、前記当時、組合員総数一〇四一名で、その内正組合員五三二名、準組合員(准組合員)五〇九名であり、出資口数合計四四四五口(一口五〇〇円)であつた。

しかして右にいう正組合員とは、被告の定款九条一項の規定により、「被告の地区内に住所を有する漁民で一年のうち三〇日以上漁業を営みまたはこれに従事する者」であり、準組合員とは、同条二項の規定により、「被告の地区内に住所を有する漁民で漁業を営みまたはこれに従事する日数が一年のうち三〇日に達しない者」であり、いずれの組合員にも右定款一七条により出資義務(一口以上)が課されている。

二  本件漁業補償の経緯

1  訴外名古屋港管理組合(以下「管理組合」という。)は、地方自治法二八四条一項に基づき、昭和二六年名古屋港の港湾施設の整備拡充、港湾区域または臨港地区内における土地の造成、整備等を目的として設立された組合である。

2  名古屋港は、昭和三四年伊勢湾台風により多大な被害を被つたため、その港湾施設の整備を早急に行う必要に迫られ、また臨海地域の急速な工業地帯化に伴う土地造成の必要性も増大していた。

3  管理組合は、右の必要性から名古屋港の整備拡充等の事業に取組むことになつたが、その場合必然的に事業計画区域内における漁民の操業を侵害することになるため、まずこれに対する補償措置を講ずることにした。

そこで管理組合は、被告を含む各関係漁業協同組合と交渉を重ねたすえ、被告との間においては以下のとおりの各協定が成立し、その頃各協定に基づく補償金(第一次ないし第三次合計四一億三五〇〇万円)が被告に支払われた。

(一) 第一次補償

被告と管理組合との間において、昭和三五年八月一日第一次の協定が成立し、被告は共同漁業権(以下「共」という。)第一〇二号区画漁業権(以下「区」という。)第一一八号、同第一一九号の放棄、上野町漁業協同組合との入漁契約の解除並びに共第一〇二ないし第一〇四号の免許区域及びその附近における許可漁業及び自由漁業の操業の放棄をすることとし、管理組合はその補償として総額二億六〇〇〇万円を支払う旨協定された。

(二) 第二次補償

被告と管理組合との間において、昭和三六年八月一日第二次の協定が成立し、被告は共第一〇五ないし第一〇七号の免許区域及びその附近における許可漁業及び自由漁業の操業の放棄、並びに横須賀町、八幡浜、平井、新和、旭の各漁業協同組合との各入漁契約に基づく一切の権利の放棄をすることとし、管理組合はその補償として総額三億七五〇〇万円を支払う旨協定された。

(三) 第三次補償

被告と管理組合との間において、昭和三七年一〇月一〇日第三次の協定が成立し、被告は共第一〇一号、伊西共第一号、区第一〇一ないし第一〇六号、同第一一三ないし第一一七号の放棄、他の漁業協同組合との入漁契約による漁業その他被告が有するすべての漁業権の免許区域における許可漁業及び自由漁業等一切の放棄をすることとし、管理組合はその補償として総額三五億円を支払う旨協定された。

三  被告の組合員に対する本件補償金の配分

1  配分義務

本件補償金は、被告に属する組合員の漁業放棄に伴う損失補償として支払われたもので、その補償の対象者は本来被告ではなく、個々の組合員である。

被告が、前記のとおり管理組合との間で本件補償交渉を行い、協定を成立させ、そして合計四一億三五〇〇万円の補償金を受領したのは、本来の権利者である各組合員に代つてしたに過ぎない。

ところが各組合員は、本件補償金の配分を被告の機関である総代会ないし配分委員会に委ねたから、被告は各組合員に対して、本件補償金を後記のとおり被告が設定した配分基準の本旨に従つて公平に配分すべき義務がある。

2  組合員の受領資格

被告は、本件補償金の各組合員に対する配分基準を、第一、二次の補償については総代会において、第三次の補償については総会及び総会において選出された分配委員によつて構成される配分委員会においてそれぞれ設定して、補償金を配分した。

ところで、総代会及び総会は、補償金の受領資格につき、定款で定める組合員資格と異なる次の基準を決めて、正組合員と準組合員とを区別した。

(一) 第一次補償についての資格

総代会は、昭和三五年九月三日被告の定款により正組合員とされる者は、本件第一次補償においても正組合員としての補償金受領資格を与えるが、ただし昭和三四年になされた日光川第一期補償について、同年九月一四日総代会で決定した同補償配分資格調査規程によつて準組合員とされた者は、あらたに正組合員としての資格があるかどうかを審査することなしに、当然に準組合員としての補償金受領資格しか与えないことを決めた。

しかして右日光川補償金配分資格調査規程では、組合員を正組合員兼業者及び準組合員に区分し、被告の定款九条の定める正組合員資格のうち、とくに漁業専業者であつて、昭和三四年九月一四日の基準日の過去一か年の内六か月以上漁業に従事したものを正組合員とし、それ以外の定款上の正組合員資格者を兼業者とし、そして右正組合員及び兼業者を除いた組合員を準組合員とした。

(二) 第二次補償についての資格

総代会は、昭和三六年八月二二日第一次補償において正組員の補償金受領資格を有するとされた者には、第二次補償においても同様の資格を与えること、第二次補償の基準日である昭和三六年八月一日から過去一か年のうち、二か月以上出漁していた者には、第一次補償において準組合員の補償金受領資格しか有しなかつたとしても、第二次補償においては正組合員としての補償金受領資格を与えることを決めた。

(三) 第三次補償についての資格

総会は、第二次補償において正組合員としての補償金受領資格があるとされた者については第三次補償においても同様な資格を与えること、その余の者はすべて準組合員としての補償金受領資格しか与えないことにした。

3  配分基準

被告は、次に述べるとおり、本件補償金の各組合員に対する配分については、第一、第二次の各補償は総代会において、第三次補償は総会及び配分委員会において、それぞれ基準を決め、その基準に従い、かつ、個々の組合員の出漁実績等を考慮して、具体的な配分額を決定した。

(一) 第一次補償

被告は、昭和三五年九月三日総代会において、実害補償ではなく、平等補償とする旨の基本方針のもとに、次のとおり決定した。

(1) 前記2(一)により正組合員としての補償金受領資格を有する者には、均等額三万五〇〇〇円のほかに、昭和三五年六月二〇日を基準として、その前一年のうち、

出漁日数六か月以上 正一〇〇パーセント三〇万円

出漁日数三か月以上六か月未満 甲五〇パーセント一五万円以上一〇〇パーセント三〇万円未満

出漁日数一か月以上三か月未満 乙五パーセント一万五〇〇〇円以上五〇パーセント一五万円未満

を基準にし、かつ、右基準の配分率及び金額の範囲内で正組合員各自の出漁実績を考慮して具体的配分率を算出し、補償の額を定める。

(2) 病人に対しては補償金として配分せず、見舞金として交付する。

(3) 前記2(一)により準組合員としての補償金受領資格を有する者及び右審査期間中の出漁日数が一か月未満の正組合員の資格を有する者には、均等額三万五〇〇〇円を補償する。

(二) 第二次補償

被告は昭和三六年八月二二日及び同月二四日開催の総代会において、次のとおりの配分基準を定めた。

(1) 前記2(二)により、正組合員としての補償金受領資格を有する者には、昭和三六年八月一日を基準日として、その前一年のうち、

出漁日数九か月以上 一〇〇パーセント七〇万円

出漁日数六か月以上九か月未満 五〇パーセント三五万円以上一〇〇パーセント七〇万円未満

出漁日数二か月以上六か月未満 一〇パーセント七万円以上五〇パーセント三五万円未満

を基準にし、かつ右基準の配分率及び金額の範囲内で正組合員各自の出漁日数を考慮して具体的配分率を算出して、補償金の額を定める。

(2) 前記2(二)により準組合員としての補償金受領資格を有する者及び右審査期間内の出漁日数が二か月未満の正組合員の資格を有する者には、均等額一万五〇〇〇円を補償する。

(3) 正組合員、準組合員を問わず、昭和三五年一一月一日以前に登録した動力船を有している者には、一隻当り四万円を補償する。

(三) 第三次補償

被告は、先ず補償金三五億円のうち準組合員全員に配分すべき総額を決め、その配分方法は準組合員に委ねることとし、昭和三七年一〇月一九日開催の総会でその旨の承認を得た。

そして残余の補償金の配分については、右総会は同会で選出した三〇名の分配委員をもつて構成される配分委員会に基準の設定を委ねたので、同委員会は同年一〇月二〇日から同年一二月三日までの間にわたつて開催された。

また準組合員においても独自の総会を開きその取得分の配分につき三〇名の分配委員を選任して、配分基準の設定を委ねた。

右手続を経て次のような配分基準及び金額が決定された。

(1) 前記2(三)により正組合員としての補償金受領資格を有する者には、

浮業者(のり養殖業以外の一般漁業(養殖かき業を含む。)に従事している正組合員)は実績一〇〇パーセントの場合 四三九万円

のり業者(のり養殖業に従事している正組合員)は実績一〇〇パーセントの場合 三六六万円

を基準にして補償することにし、組合員各自の具体的配分率及び配分額は配分委員会が各組合員の昭和三四年六月(日光川第一期補償)から昭和三七年一〇月一〇日(本件第三次補償協定の成立日)までの審査期間の出漁日数、水揚量、船の所有等を検討したうえ決定するが、第一、二次の各補償において正一〇〇パーセントの補償を受けた正組合員は、原則として第三次補償においても一〇〇パーセントの補償を受け、第一、二次で正一〇〇パーセントでない正組合員は第一、二次の配分率に従い減額される。

(2) 前記2(三)により、準組合員の補償金受領資格を有する者には、昭和三四年一〇月の日光川第一期補償における汚水見舞金の受領者 五五万円

昭和三〇年以前に漁業を廃止して他に転業した者 五〇万円

漁業に従事していない者 三五万円をそれぞれ補償する。

(3) かき養殖業者については、

前記2(三)による正組合員 一反二万一〇〇〇円

前記2(三)による準組合員 一反二五万円

を補償する。

(4) 前記2(三)で正組合員の補償金受領資格を有する者が、右(1)の審査期間中に死亡した場合には、審査期間(四〇か月)内の割合によつて、補償する。

四  原告ら及びその被相続人の個別資格とその補償額

主位的主張

日光川第一期補償において、正組合員としての補償金受領資格があると判定された者または前記三2(一)記載の日光川補償金受領資格調査規定により正組合員としての資格があると判定されるべきであつた者で、かつ、昭和三五年六月二一日当時被告の組合員名簿に登録されている組合員は、昭和三四年九月一四日(日光川第一期補償の基準日)以降の出漁の有無及びその生死を問わず、従つて被告の設定した前記三3の各配分基準所定の出漁実績等のいかんにかかわらず、当然に本件第一ないし第三次の各補償において、前記三3記載の配分基準における正組合員として正一〇〇パーセントの補償金受領資格を有する。

1  日光川第一期補償において正組合員としての補償を受け、かつ、右組合員名簿に登録されている次の者は、前記三3記載の配分基準のとおり第一期補償において一〇〇パーセント(三〇万円及び均等額三万五〇〇〇円)、第二次補償において一〇〇パーセント(七〇万円)、漁船補償四万円、第三次補償において一〇〇パーセント(四三九万円)、海苔補償三六六万円をそれぞれ受領する資格がある。

原告森栄一、同森仙太、同森末太、同森登佐治、同福谷幸雄、同服部金次郎、承継前原告木村寿三郎、原告西川林之助、訴外西垣久治郎、原告西川兼松、承継前原告湯浅源助、訴外久田義雄、同水野綱吉、原告水野透、訴外加藤彦八、同西川市松、原告森良一、訴外鬼頭繁次郎

2  次に右日光川補償金配分資格調査規程によれば、日光川第一期補償において正組合員としての補償金受領資格があるにもかかわらず、誤つて準組合員として取り扱われ、かつ、右組合員名簿に登録のある次の者は、第一ないし第三次の各補償において、右1と同様の補償金受領資格がある。

承継前原告山田年一、原告飯田新一、同荒川喜代治、承継前原告犬飼弥三郎、原告森庄一、承継前原告森八重吉、同森太吉、同森新八郎、原告山田勝美、同森新二郎、同森年一、承継前原告森永一、訴外森登三郎、原告中島嘉重、同鬼頭常次、同浅井啓三、訴外松波日出男、原告森徳一、承継前原告松波関市、原告松波長平、同中島由春、同森勝一、承継前原告犬飼辰右エ門

よつて、原告らは被告に対し、次のとおり正当に受領しうる本件補償金の金額と既に受領した金額の差額を請求しうる〈中略〉。

予備的主張

仮に原告らについてそれぞれ前記主張の理由に基づく前記請求額がそのとおり認められないとしても、原告らは、前記三23記載の本件補償金受領資格及び配分基準に基づき、被告に対し次のとおりの補償金を請求しうるものである。従つて原告らが既に受領した補償金は次のとおり不足するので、その差額を請求する。

1  原告山田いわの、同山田勇、同長内順子、同山田勝美、同山崎啓子

承継前原告山田年一は明治四一年一〇月二日に生まれ、尋常小学校卒業後直ちに従事し、以来本件補償終了時まで約四〇年間にわたつて一般漁業で一家の生計を維持してきた。

(一) 同人は、被告に対する出資義務を履行し、かつ、別紙漁業実績表(以下「実績表」という。)記載1のとおり出漁しており、被告の定款及び日光川補償配分資格調査規程(以下「日光川補償規程」という。)においても正組合員としての補償金受領資格を有していたのに、日光川補償において誤つて準組合員の資格しかないと判定された。

そのため、同人は第一次補償において準組合員として扱われたが、この補償資格の判定は不当であり、前記三2の資格基準によれば正組合員としての補償を行うべきである。

(二) 同人は、前記三3の配分基準によれば、同人の前記出漁日数及び同人が漁船(登録済みの動力船)を有していたことからして、第一ないし第三次の各補償において、正組合員として一〇〇パーセントの補償及び漁船補償四万円を受ける資格を有していたにもかかわらず、第一次補償においては準組合員として五〇〇〇円、第二次補償においては正組合員として七六パーセント(五三万二〇〇〇円)、漁船補償三万〇四〇〇円、第三次補償においては正組合員として五五パーセント(二四一万四五〇〇円)の各補償金しか受領していない。

(三) 従つて、同人が前記三3の配分基準に照らし、正当な補償金として受領しうる金額は、五四六万五〇〇〇円(33万5000円(第一次)+70万円(第二次)+4万円(漁船)+439万円(第三次)=546万5000円)であるにもかかわらず、現実に受領した金額は合計二九八万一九〇〇円であり、二四八万三一〇〇円が未受領となつている。

(四) 同人は昭和五三年二月二日死亡し、相続により別紙相続人請求額一覧表(以下「一覧表」という。)1の当事者欄記載の原告らがその記載のとおり権利義務を承継したから、同原告らは同表1の請求額欄記載の金員を被告に対して請求しうる。〈以下、省略〉

理由

一請求原因一、二の各事実(当事者及び本件補償の経緯)は当事者間に争いがない。

二本件補償金の配分義務

1  〈証拠〉をあわせ総合すると、次の事実が認められる。

(一)  第一次補償金二億六〇〇〇万円は、被告の有する前記共同漁業権、区画漁業権及び入漁権の各放棄、並びに被告に所属する組合員の前記区域における許可漁業及び自由漁業の操業(利益)の放棄に対する損失補償であるが、右補償金の額は右各漁業権及び漁業放棄による各損失をそれぞれ各漁業権及び漁業ごとに区分して特定することなく、一括して、しかも政策的配慮も加味し、総額のみが合意された。

被告は総会を開き、総会において第一次補償協定の承認を経たうえ、右補償金の組合員に対する分配方法を総代会に委ねることが決議された。

(二)  第二次補償金三億七五〇〇万円は、被告の有する前記各入漁権の放棄並びに被告に所属する組合員の前記区域における許可漁業及び自由漁業の操業(利益)の放棄に対する損失補償であるが、この場合も補償金の額は、第一次補償と同時に、各項目ごとに特定されることなく、政策的配慮も加わつて、総額のみが合意された。

被告は、昭和三六年八月二二日総代会を開催し、同会において第二次補償協定の承認を経たうえ、右補償金の組合員に対する分配方法は総代会がそのまま配分委員会となつて決定することを決議した。

(三)  第三次補償金三五億円は、被告が有する前記共同漁業権、各区画漁業権及び各入漁権の放棄、並びに被告に所属する組合員の操業にかかる許可漁業及び自由漁業等一切の放棄に対する損失補償であるが、この場合も補償金の額は第一、二次と同様に総額のみが合意された。

被告は、第三次補償協定によつてすべての漁業権、入漁権を失い、かつ、被告に属する組合員は許可漁業、自由漁業等を行えなくなるため、昭和三七年一〇月五日臨時総会を開き、右協定内容を事前に了承する旨の決議を経たうえで、同月一〇日協定を締結し、そして同月一九日右補償金を分配するため総会を開いて、配分委員会にその分配方法を任せることにし、右委員を選出した。

以上のとおり認められ、右認定に反する証拠はない。

2 次に本件各補償金の実体上の帰属関係を検討する。

(一) 右前提として、漁業権及び入漁権並びに許可漁業及び自由漁業の操業利益について、実体上の帰属関係に若干触れる。

(1)  漁業権及び入漁権

昭和三七年九月一一日法律第一五六号による改正前の漁業法によつて、漁業協同組合(以下「組合」という。)の有する漁業権及び入漁権(以下「漁業権等」ともいう。)についての組合と組合員との関係をみるに、同法六条二項及び七条は、漁業権及び入漁権とは「漁業を営む権利」をいうとし、同法八条は、組合員である漁民は、定款の定めるところにより、組合の有する漁業権又は入漁権の範囲内において各自「漁業を営む権利」を有する旨規定している。そこで右各規定と漁業法のその他の関連諸条項及び水産業協同組合法四八条一項九号の趣旨をあわせ検討すると、漁業権等は組合に帰属し、従つて組合がその権利主体であるが、しかし組合は自ら漁業権等の内容である漁業を営むことができず、組合員の権利行使を規制する管理権及び処分権を行使し得るだけであり、実質的な収益権としての漁業を営む権利は組合員が各自行使するという形で各組合員に帰属するものと解される。従つてまたこれを裏返してみれば、組合員が各自有する漁業を営む権利は、組合に帰属する漁業権等に基づくものであつて、その団体的規制としての定款の定めるところに従つて行使し得るに過ぎず、しかも組合員の右権利は収益権のみを内容とするものであつて、管理処分権を内容とするものではないと解される。

(2)  許可漁業及び自由漁業

許可漁業は、行政庁の許可を得た漁民が許可にかかる漁業を行うもので、許可の対象者である操業者は個々の漁民であり、また自由漁業は、個々の漁民がなんらの制約を受けないで行うものであつて、いずれも組合の団体的規制に服することなく、その操業利益は当然に個々の漁民に帰属するものであるが、当該漁業の利益が社会通念上権利と認められる程度にまで成熟していると認められる場合は格別、当然には権利性を有しない。

(二) そこで右のような理解をふまえて本件補償金の実体上の帰属関係について判断する。

(1)  先ず漁業権及び入漁権放棄に対する補償金についてみる。

前記のように漁業権等は組合に帰属し、その管理、処分権は組合のみが行使し得るものであること、及び証人長谷川一一の証言によると、本件補償は公有水面埋立法に基づくものであることが認められるので、同法六条二項の規定をもあわせ考慮すると、漁業権等の放棄の代償としての補償請求権は組合に帰属し、そして組合はその有する漁業権等の管理処分権限に基づいて自己の名において補償を交渉し成立させ、そして補償金を受領することができるものであり、従つて被告が管理組合と本件各補償協定を締結し、補償金を受領したのは、その固有の権限に基づくものであつて、原告ら主張のごとく組合員の代理ないし代表としてしたものではないといわねばならない。

しかし他面、前記のように漁業権等の内容である収益権としての漁業を営む権利は組合員が有するものであるところ、本件補償はかような組合員のもつ収益権の喪失による損失(得べかりし漁業収益の喪失及び漁具等の売却損等)を補償する目的で支払われたものであるから、右補償の利益は組合員が享受すべきものである。従つてそれは組合員に配分されるべきものであるが、組合財産のいわゆる剰余金と解することはできず、受益者たる組合員の利益のために、組合の他の一般財産からの独立性(分別管理・処分)が容認されるべきである(信託財産性)。

(2)  次に許可漁業及び自由漁業の放棄に対する補償金についてみる。

許可漁業制度は、水産資源の保護、漁業調整の目的から自由に漁業を営むことを一般的に禁止し、行政庁が出願を審査して特定の者に禁止を解除するものであつて、本来の自由の回復に過ぎず、他の漁業を排除して独占的に営むことのできる物権としての漁業権とは性格を異にし、このため公有水面埋立法は許可漁業を営む者を公有水面に関して損失補償の対象となる権利を有する者としておらず(同法四条、五条、六条)、従つて漁業許可自体に事実上財産的価値があるとして取扱われているからといつて、当該漁業の利益が社会通念上権利と認められる程度にまで成熟していると認められる場合ないし実体上保護されるに足るべき法的利益と認められる場合は別にして、そうでない限り許可漁業の操業放棄に対して直ちに補償措置が必要であると解することはできず、自由漁業についても同様である。

しかし右のような許可漁業及び自由漁業の操業利益は、本来、組合の規制に服さず、漁業者である組合員個人が享受できるものであり、従つてその利益の放棄及びこれに対し補償が認められる場合のその補償については、漁業権の放棄の場合と同一に考えることができず、これにつき組合が本来的に権限を有しているものと解することはできない。

しかして本件各補償協定について、許可漁業及び自由漁業を営む被告の組合員全員が各自その操業利益を放棄し、それに対する補償協定締結の権限を被告に与えていたと認むべき証拠はない。

しかし本件において被告の組合員の有する右漁業利益が社会通念上権利性を有し、ないしは保護に値する法的利益であると認めるに足りる証拠はなく、かえつて証人長谷川一一の証言によると、管理組合は、組合員の有する右漁業利益の権利性を有することについては深く調査検討せず、むしろ実体は権利性をもたず、補償の対象にならないとの認識であつたが、当時被告が右漁業利益をも含めた全面補償でない限り漁業権等の放棄に応じられないとの態度であつたので、管理組合は右要望に抗し切れず、組合員のもつ許可漁業及び自由漁業の放棄をも補償の対象に加えたものであることが認められること、しかして、組合は漁民の協同組織体であつて、その経済的社会的地位の向上を図ることが主要目的であつて、右目的達成に必要な広範な事業を行うことが認められ(水産業協同組合法一一条一項一号ないし一二号)、その一環として、組合員の経済的地位の改善のために、組合が当事者となつて、組合員の取引相手方との間で、その取引条件など組合員個人に帰属すべき利益に関し、団体協約を締結する権限を与えられており(同法一一条一項一一号)、組合が右のような権限を有することの趣旨、及び公有水面埋立法六条二項によると、いわゆる組合管理漁業権についての補償を受ける資格は組合が有するとされていることの趣旨を総合考察すると、被告に所属する組合員の許可漁業及び自由漁業の放棄に対する本件補償についても、被告はその有する独自の権限に基づき自ら当事者となつて、組合員の経済的利益のために、管理組合と交渉し、協定を締結し、補償金を受領する権限を有し、従つて被告はかかる権限に基づき本件補償交渉及び協定締結を行つたものであり、原告らの主張のごとく被告に属する組合員の代理人または代表として行つたものではない。

3 本件補償金の分配について判断する。

(一) 漁業権、入漁業権に対する本件補償金の分配について検討する。

前記2の(一)、(二)で説示したとおり、漁業権、入漁権の放棄に対して支払われた本件補償金は、被告に属する組合員がその利益を享受すべきものであるが、しかしこのことから組合の所定の配分手続を経ることなく、当然に組合員が右補償金について直接の請求権を取得するものということはできない。被告は漁業権等に関する管理権限に基づき、本件補償協定を締結し、補償金を受領、保有しうるだけでなく、漁業権、入漁権の変形したものとして、本件補償金についても管理、処分権限を有し、この権限に基づき公平かつ適正に右補償金を組合員に分配すべきものと解される。そしてその場合右分配については水産業協同組合法四八条一項九号、五〇条四号の趣旨に準じ、総会の特別決議に基づくことを要する。

従つて、被告に属する個々の組合員が本件補償金の分配を直ちに求めることはできず、被告の総会決議により決定された分配方法に基づき、本件補償金につき権利を取得し、それを行使しうることになるものである。

次に許可漁業、自由漁業に対する本件補償金の分配について検討する。

前記2の(一)、(二)で説示したとおり、許可漁業、自由漁業の操業放棄に対する補償金は、本来、組合員個人に帰属する漁業利益についてなされるものであるが、本件の場合、組合員の右漁業利益が実体的に補償の対象となり得る権利性を有しているとは認められなかつたが、被告の強い要望によつて、右漁業利益についても、組合員の利益のために、組合員管理漁業権の補償と同視し、その手続に乗せて補償することが実現したものであり、しかも右補償の額は各漁業権等、許可漁業及び自由漁業毎に特定されることなく、一括して総額のみが協定されたものであることを考慮すると、許可漁業及び自由漁業利益についての補償金についても、前記漁業権放棄に対する補償金と同様に、被告がその分配手続を行う権限及び義務を有し、そしてその手続は総会における特別決議で行うべきものと解する。

(二) 右のように補償金の配分は総会の特別決議を要するが、しかしこのことは総会が自ら配分手続の一部始終を直接行わねばならないことを意味しない。総会の決議により、既存の総代会等を利用し或いは新たに配分委員会等を設置して、これらの機関に配分基準の設定等を含む配分作業を行わせることは合理的であつて、是認されるものである。

ところで本件においては、前記1のとおり、具体的な配分基準の設定を含む配分額の決定等は、第一次補償が総代会、第二次補償が総代会による配分委員会、第三次補償が分配委員による配分委員会でそれぞれなされたものである。そしてこれら機関の決定は、総会の決議と一体をなすものである。

従つて被告に属する組合員(原告らを含む。)は、総会で決定された分配方法(総代会及び配分委員会で決定された内容を含む。)が適法有効である限り、これに基づいて、被告に対し本件補償金を請求しうる。

三配分基準ないし配分金額等の決定等及びこれに基づく補償請求権の有無について

1  原告らは、本件補償金配分手続に関し配分基準及びその金額を決定した部分が適法有効であることを前提として、原告らに対する正・準の補償金受領資格または配分比率の各判定が著しく不公平で無効であると主張し、右無効部分について正当な受領資格を主張して、右資格に対応する配分基準に従つた補償金を算定し、それと既に受領している補償金の差額を求めているものである。

そこで本件補償金の配分基準ないし配分額決定等の内容についてみる。

(一)  第一次補償について

〈証拠〉によれば、以下のとおり認められる。

第一次補償金総額二億六〇〇〇万円の配分基準ないし配分金額等の決定等を委ねられた総代会は次のように決定した。

すなわち、まず区画漁業者(かき養殖業者)に第一次補償金の内から六二四六万円を配分することを決め、次に被告の借入金返済資金、海苔養殖の融資金、市場復興費等を右補償金から控除した残金について浮業者である被告の組合員及び被告に勤務する事務員に分配することを決めた。

その後の配分手続として、総代会はまず、正組合員としての補償金受領資格者とその余の者とを区別したうえ、右各正組合員としての資格者について、昭和三五年六月二〇日を基準日として一年間を遡り、その間の出漁日数が六か月以上の者は一〇〇パーセント、三か月以上の者は五〇パーセント、一か月以上の者は五パーセントの各配分比率を基準にし、かつ、右基準の配分率の範囲内で各正組合員の出漁実績を考慮して、正組合員各自に割り当てられる具体的配分率を算出し、これに基づき補償することにし、次に全組合員に対して均等額の補償として五〇〇〇円を配分することを決め、そのあと病人、死亡者、見習い期間中の者、事務員等についても配分する金額を決め、最後に正組合員として補償金受領資格のある者から各人の受ける補償金の一〇パーセントを冷蔵庫の建設資金として拠出することを決めた。

総代会は右基準に従い、正組合員としての補償金受領資格を有する者について、出漁実績を勘案して補償金の配分比率を具体的に決定し、これを各組合員に知らせたうえ、異議のある者について総代会が審査して、各正組合員に割り当てるべき具体的配分比率を最終的に決定した。

以上の決定に基づき、第一次補償金の総額から、区画漁業者への配分合計額、借入金返済金額、海苔養殖の融資金として留保する金額、市場復興費の金額、被告の事務職員への分配額等及び浮業者に均等額として分配する合計金額等を控除し、その残額を正組合員としての補償金受領資格者各人に決定された配分比率の総合計で除し、一パーセント当りの具体的配分金額を決め、そのうえで右各人について具体的な補償金配分額を算出し、これを配分した。

(二)  第二次補償について

〈証拠〉によれば、以下の事実が認められる。

第二次補償金総額三億七五〇〇万円の配分基準ないし配分金額等の決定等を委ねられた配分委員会(但し委員は総代全員が就任)は次のように決定した。

すなわち、浮漁補償について、第二次補償協定成立の日である昭和三六年八月一日の基準日から一年間を遡つて、その間二か月以上出漁した組合員を正組合員としての補償金受領資格者とし、出漁日数が二か月に達しない者及び漁場料を支払つていない者を準組合員としての補償金受領資格しかないものとし、右準組合員には一人当り均等額一万五〇〇〇円を配分することにした。

正組合員としての補償金受領資格者については、右基準日から遡つて、一年間の出漁日数が九か月以上の者には一〇〇パーセント、六か月以上の者には五〇パーセント、二か月以上の者には一〇パーセントの配分比率を基準にし、かつ、右基準の配分率の範囲内で正組合員各自の出漁日数を考慮して正組合員各自に割り付ける具体的配分率を算出して、補償することを決め、プレミアムとして動力船補償を行うことにし、昭和三五年一一月一日以前に登録または登録受付をし、かつ右基準日に現存している動力船を所有している正組合員としての補償金受領資格者に対し、一隻当り最高額四万円の範囲内で前記配分比率に従つて配分する旨決定した。

配分委員会は右基準に従い、正組合員としての補償金受領資格者とその余の者とを区別し、正組合員としての補償金受領資格者については、その出漁実績を勘案して補償金の配分比率を決定し、これらの決定を各組合員に知らせたうえ、異議のある者について、配分委員会が審査して、最終的に正組合員としての補償金受領資格者、その者の配分比率及び動力船補償対象者を決定した。

そして、第二次補償金総額から事務経費等の額及び準組合員としての補償金受領資格者への配分額を控除し、次いで動力船補償に充てる金額(正組合員としての補償金受領資格者の各人についての配分比率を四万円に乗した金額の総合計)を控除し、その残額を、正組合員としての補償金受領資格者各人について決定された配分比率の総合計で除し、一パーセント当りの具体的配分金額を算出して、これにより右各人の具体的補償金配分額を決め、これを配分した。

(三)  第三次補償について

〈証拠〉によれば、以下の事実が認められる。

第三次補償金総額三五億円の配分基準ないし配分金額等の決定等は次のようになされた。

被告は、第二次補償の配分手続において決定した正組合員としての補償金受領資格者とその余の者との区別を第三次補償の配分手続においてもそのまま踏襲することにしたうえで、第三次補償の配分手続を進めた。

先ず被告は、補償金三五億円のうち二億四九四四万六〇〇〇円を準組合員、五〇三名に対する浮漁補償の取得分として、その配分方法は準組合員に委ねることとし、その旨の総会の決議を経た。

そして残余の補償金三二億五〇五五万四〇〇〇円の配分方法については右総会の決議で選出された分配委員による配分委員会が設置され、また準組合員の前記取得分二億四九四四万六〇〇〇円の配分方法については準組合員の総会決議で選出された分配委員による配分委員会が設置されて、次のような順序で決定した。

(1) 前記三二億五〇五五万四〇〇〇円の配分内容について

ア 先ず海苔業者二八六名に対し、資格に問題のある三七名を除く二四九名について一人当り三六六万円を配分する。三七名については資格審査をし、開始年度、世帯構成等を考慮し、右金額の範囲内で配分額を決定した。

次に正組合員たるかき養殖業者について一反当り二万一〇〇〇円なる配分基準を決めて具体的な各人の金額を決定し、また準組合員たるかき養殖業者については一反当り二五万円を配分する旨決定した。

最後に正組合員としての補償金受領資格を有する浮業者について、昭和三三年八月から昭和三七年一〇月一〇日までの出漁状況等を各人について審査して、各人に割り当てられる具体的配分比率を決定した。

イ 右作業を経て、同年一一月一五日ころ、配分委員会は浮業者についてはその各自の配分比率を、海苔業者及びかき養殖業者については具体的金額を知らせ、同月一七日異議申立を受付けて、配分委員会がその審査をして最終的に配分比率及び配分金額を決め、同年一二月一日病人、死亡者についての補償額を決定した。

ウ その後の手続として、第三次補償金総額から準組合員としての補償金受領資格者に配分すべき合計金額、海苔業者及びかき養殖業者に配分する合計金額及びその他被告に勤務する事務員等へ支払う金額を控除した残額を、正組合員としての補償金受領資格を有する浮業者各自について既に決定している前記配分比率の総合計で除し、一パーセント当りの具体的配分金額を算出し、これにより各人の具体的配分額を決定した。

(2) 準組合員の前記取得分二億四九四四万六〇〇〇円の配分内容について

準組合員としての補償金受領資格者についても、配分委員が審査し、各人について同年一〇月三〇日準組合員の総会において、漁業を専業とした組合員のうち一部の者は五五万円、漁業を専業とした者及び舟によつて漁業をしていた者は五〇万円、その余の者は三五万円とし、大体、五五万円の配分を受ける者を一〇〇人以下、五〇万円の配分を受ける者を三〇〇人以上、三五万円の配分を受ける者を一〇〇人以下とする旨の配分委員会の案を承認し、以後の配分手続を配分委員会に一任した。

(四)  本件各補償金の配分手続については以上のとおり認められ、〈反証排斥略〉。他に前認定をくつがえすに足りる証拠はない。

2  右認定事実に基づき、原告らの前記主張について検討する。

(一)  第一次補償

この点の原告らの主張を検討するについては、前提として先ず、配分さるべき補償の額が限定されていて、限定された額の原資の配分であるということが考慮されねばならない。従つて配分すべき原資の額に制約されず、また組合員の員数を考慮せずに、一定の配分基準及びその金額を設定し、そしていわばこれを所与の条件として変動させることなく、その下で、ただ当該組合員がそのいずれの基準・金額に該当するかという当てはめ(資格付け)だけを問題にして、当該組合員に配分すべき具体的金額を算定するということではすまされない。それぞれの基準金額自体が逆に当該基準に該当する資格を有する組合員の数を考慮して決定されるものであつて、配分基準及びその金額並びに組合員の資格付けの決定は相即不離の関係にあるものである。若しそれらが相互に関係なく決定されるならば、各組合員に配分すべき具体的な補償金の合計額が計算上原資を上回ることがあり得ることになる。以上の理は以下の第二、三次補償においても同様である。

そこで右の点を第一次補償についてみると、前記三1(一)で認定したとおり、第一次補償における正組合員としての補償金受領資格者についての配分金額は、最後に決定されたのであり、そしてその配分については、先ず基準となるべき抽象的な配分比率を設定し、かつ、正・準の各補償金受領資格者を区別する判定及び資格付けられに組合員各自に割り当てられる具体的配分比率の決定をし、その後に右具体的配分率の総合計で除して、初めて一パーセント当りの配分金額を算出し、その結果各組合員が取得できる具体的な補償の額が決定されたものである。

すなわち最終的に、正組合員としての補償金受領資格者として決定された組合員数及び当該組合員各自に決定された具体的配分比率が一人でも変更されると、右配分比率に対応する具体的金額(一パーセント当りの具体的金額)も変ることになり、結局、決議の内容として、配分基準及びその金額と各組合員の資格付けとは相互に関連し合つた不可分一体のものになつていると解さざるを得ない。従つて、原告らの主張のように、配分基準及びその金額と各組合員の資格付けを切り離して、一方を有効とし、他方を無効とすることはできない。

そうすると、若し原告ら主張のように原告らに対する資格付けに誤りがあつて、それが無効であり、原告らはそれぞれの主張の補償金受領資格を有し、かつその主張の配分比率による補償金を受けられるとするならば、前記基準金額の決定の効力にも当然影響を及ぼしてこれも無効となり、当該基準金額による補償請求権は生じないものといわざるを得ない。

よつて、原告らについての資格付けの判定が著しく不公平なものであるか否かを判断するまでもなく、原告らの主張は失当である。

(二)  第二次補償

前記三1(二)で認定したとおり、第二次補償における正組合員としての補償金受領資格者のうち、浮業者についての配分金額は、第一次補償における正組合員としての補償金受領資格者に対する分配手続と同様に行われたものである。

従つて、右浮業者についての配分基準と資格付けは不可分一体のものと解さざるを得ず、原告らの主張のように配分基準と各組合員の資格付けを分離して、一方は有効だが、他方は無効であるとすることはできない。

次に、動力船補償については、前記三1(二)で認定したとおり、当初に最高四万円という補償金額が決定されたが、動力船補償は正組合員としての補償金受領資格を有する浮業者にプレミアムとして、右各人の配分比率に従つて、最高四万円を配分するというものであり、浮業者への配分基準とは別個独立に決められたものとは認め得ない。

従つて、正組合員としての補償金受領資格を有する浮業者に対する分配手続と同様に、各組合員の資格付けにより、動力船補償の対象者が増え、その配分合計金額が増加する場合は、当然配分基準である最高四万円という金額も変更することが予想されるのであるから、配分基準と資格付けは不可分一体というべきである。

よつて、第二次補償における浮業者(正組合員としての補償金受領資格者)に対する補償及び動力船補償については、原告らについての資格付けの判定が著しく不公平なものであるか否かを判断するまでもなく、原告らの主張は失当である。

(三)  第三次補償

前記三1(三)で認定したとおり、第三次補償における、正組合員としての補償金受領資格者のうち、浮業者についての配分金額は、第一、第二次の各補償における浮業者に対する分配手続と同様に行われたものである。

従つて、右浮業者について配分基準・金額と資格付けは、第三次補償においても不可分一体のものと解さざるを得ず、原告らの主張のように配分基準・金額と各組合員の資格付けを分離して、一方は有効だが他方は無効であるとすることはできない。

また、海苔補償については、前記三1(三)で認定したとおり、当初から補償対象者の数は最高二八六名と決まり、その内の三七名については審査したうえで配分額を決めるということで、一人当り三六六万円と臨時総会で決議されたのである。

海苔補償の対象者が右二八六名以上に増える場合または問題のある三七名について厳重な審査がなされずに配分金額を決めるのであれば、当然一人当りの配分金額も変更されることが予想されるのであつて、このことは、海苔補償の配分合計金額の増加が浮業者に対する補償の配分合計金額の減少に直接影響してくるため、海苔業者と浮業者の利害が激しく対立することから明らかである。

従つて海苔補償についても、その対象者の資格付けと配分基準の各決定は不可分一体のものであり、原告ら主張のように一方は有効だが、他方は無効であると解することはできない。

よつて、第三次補償における浮業者及び海苔業者に対する各補償については、いずれも原告らについての資格付けが著しく不公平であるか否かを判断するまでもなく、原告らの主張は失当である。

(四)  以上のとおり、原告らの主張は、本件補償金の配分基準・金額と原告らに対する資格付けの各決定を分離し、一方を有効とし、他方を無効とする、との前提に立つものであるが、右前提が失当であることは右説示のとおり明らかであるから、主位的及び予備的の各請求内容について判断するまでもなく、右請求はいずれも理由がない。

五以上の次第で、原告らの本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、民訴法八九条、九三条一項本文により主文のとおり判決する。

(田辺康次 合田かつ子 西田育代司)

請求金額一覧表〈省略〉

漁業実績表〈省略〉

相続人請求額一覧表〈省略〉

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